

近年の猛暑により、製造業における熱中症対策は、従業員の健康管理だけでなく、企業の安全管理・品質維持・生産性向上に直結する重要課題となっています。
特に工場や倉庫では、屋外作業と違って暑さが見えにくく、「空調を入れているから大丈夫」と考えられがちです。
しかし実際には、空調が届きにくい製造ライン、炉や加熱設備周辺、物流倉庫や出荷エリア、高湿度環境の作業現場など、多くの場所で熱中症リスクが発生しています。
現在、多くの企業ではWBGT(暑さ指数)による環境管理が導入されています。しかし、同じWBGT環境でも体調変化や集中力低下の現れ方は作業者によって異なります。これからの熱中症対策では、「環境を見る」だけでなく「人の状態を把握する」ことが重要です。
本記事では、工場・倉庫における熱中症対策の基本であるWBGT管理と、その先にある次世代型の安全管理について解説します。
近年は夏季の高温化が進み、製造業の現場における暑熱環境は年々厳しさを増しています。
熱中症は単なる体調不良ではなく、作業ミス、判断力低下、品質不良、生産停止、労働災害につながる可能性があります。
そのため企業にとって熱中症対策は、「従業員の健康管理」だけでなく、「品質と生産性を守るための経営課題」になっています。特に工場・倉庫・職場での実務対応を検討する企業では、熱中症対策を現場任せにせず、データに基づいて管理する仕組みづくりが求められます。
職場における熱中症死傷者数推移

出典:厚生労働省「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」を基に作成
厚生労働省の公表資料によると、職場における熱中症による死傷者数は近年増加傾向にあり、2025年には1,803人となっています。工場や倉庫など、空調が効きにくい現場では、WBGT管理に加えて作業者の状態を把握する継続的な対策が求められます。
熱中症対策を考える上で欠かせない指標が、WBGT(Wet Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度)です。
WBGTは一般的な気温とは異なり、気温、湿度、輻射熱、気流などを踏まえて暑熱環境を評価する指標です。
例えば工場内では、同じ28℃でも、湿度が高い、大型設備から熱が出ている、換気が不足しているといった条件により、作業者が受ける暑熱負荷は大きく変化します。そのため製造業では、温度だけでなくWBGTを基準に管理することが重要です。
特に、空調が届きにくいライン、熱源に近い作業場所、風通しの悪い倉庫などでは、事務所の温度計や空調設定だけでは実態を把握しきれません。作業場所ごとのWBGTを見える化し、休憩、水分補給、作業時間の調整、設備改善につなげることが実務上のポイントになります。
身体作業強度等に応じた暑さ指数(WBGT)基準値
区分 | 例 | 暑さ指数(WBGT基準値 ℃) | |
熱に順化している人 | 熱に順化していない人 | ||
0 | ・安静 ・楽な座位 | 33℃ | 32℃ |
1 | ・軽い手作業(書く、タイピング、描く、縫う、簿記) ・手及び腕の作業(小さいベンチツール、点検、組立て又は軽い材料の区分け) ・フライス盤(小さい部分) ・コイル巻き ・2.5km/h以下での平たんな(陸)な場所での歩き | 30℃ | 29℃ |
2 | ・継続的な手及び腕の作業(くぎ打ち、盛土) ・腕及び脚の作業(トラックのオフロード運転、トラクター及び建設車両) | 28℃ | 26℃ |
3 | ・強度の腕及び胴体の作業 ・重量物の運搬 ・ショベル作業 ・ハンマー作業 ・草刈り ・掘る ・鋳物を削る ・コンクリートブロックを積む | 26℃ | 23℃ |
4 | ・最大速度の速さでのとても激しい活動 ・おの(斧)を振るう ・平たんな場所で走る | 25℃ | 20℃ |
出典:厚生労働省「暑さ指数について」を基に作成
WBGTの基準値は、作業者が行う作業の強度によっても変わります。安静時や軽作業では比較的高いWBGT値まで許容される一方、重い運搬や階段昇降など身体負荷の高い作業では、より低いWBGT値でも注意が必要です。また、暑さに慣れていない作業者は、熱に順化している作業者よりも低い基準値で管理することが推奨されます。
WBGTの管理は熱中症対策の基本です。しかし、WBGTだけで熱中症リスクを完全に把握できるわけではありません。なぜなら、熱中症やヒューマンエラーの発生には、環境要因だけでなく作業者一人ひとりの状態が大きく関係するためです。
同じ作業ラインで同じWBGT環境にいても、集中力が低下している人、眠気が出ている人、疲労が蓄積している人では、作業者の状態によって熱中症リスクや作業パフォーマンスへの影響の現れ方は異なります。その背景には、睡眠不足、疲労蓄積、ストレス、作業経験の違い、暑熱順化の状態、個人の体調差などがあります。
実際の現場では、「まだ大丈夫」と本人が感じていても、すでに集中力や覚醒度が低下しているケースもあります。つまりWBGTは「環境の危険度」を示しますが、「人の状態」までは測れないのです。
WBGTは熱ストレスを評価する有効な指標ですが、個人の体調や疲労状態、暑熱順化の状況などを直接把握するものではありません。そのため厚生労働省や中央労働災害防止協会では、WBGT管理に加え、作業者の健康状態確認や適切な作業管理を組み合わせた対策が重要であるとされています。
工場・倉庫における熱中症対策では、WBGTによる環境管理が重要です。しかし実際の熱中症リスクやヒューマンエラーは、環境要因だけでなく、作業者一人ひとりの状態にも大きく左右されます。
そこで注目されているのが、作業者の状態をデータとして可視化するアプローチです。
「emoco eye®(エモコアイ)」では、非接触で取得した生体センシングデータをもとに、集中度、眠気度、消耗度、活性緊張度、呼吸強度、脈拍数などを可視化できます。
これまで感覚的に判断されがちだった「今日は疲れていそう」「午後になると集中力が落ちる」「作業負荷が高まっている」といった状態を数値として把握できるため、状態変化の兆候に気づきやすくなります。
レスターでは、エモコアイ®で取得したデータを現場で活用しやすい形に整理し、作業者の状態変化を一覧で把握できるオリジナルダッシュボード「エモスタトナビゲーター」を提供しています。これにより、管理者は個人や現場全体の状態を俯瞰しながら、より迅速な安全管理や業務改善につなげることが可能になります。
エモコアイ®の特長は、人の状態データに加えて、温度、湿度、CO2濃度、推定室内暑さ指数などの環境データも扱える点にあります。これにより、環境データと作業者状態データを組み合わせた分析が可能になります。
例えば、WBGTの変化と集中度に一定の傾向が見られないか、CO₂濃度と眠気度の関係性に傾向が見られないか、湿度変化と消耗度に相関がないかといった観点で、現場ごとの傾向を把握できます。
従来の熱中症対策は、「危険だから休憩する」「暑くなったから冷却する」という事後対応になりがちでした。しかし、環境と人の状態を同時に見える化できれば、「危険になる前に対策する」予兆型の安全管理へ進化できます。
※エモコアイ®では、熱中症対策の指標として広く利用されているWBGT(暑さ指数)を、「推定室内暑さ指数」として表現しています。
エモコアイ®を活用することで、製造現場では安全管理、品質改善、生産性向上、教育・OJT最適化など、複数の効果が期待できます。
安全管理では、集中度や眠気度の低下を把握し、事故やミスの兆候を早期に発見できます。品質改善では、暑熱環境とヒューマンエラーの関係を分析し、不良発生要因の特定に役立てることができます。
生産性向上の観点では、作業効率の良い環境条件や時間帯を把握し、休憩タイミングや作業計画の見直しにつなげられます。教育・OJTでは、熟練作業者と新人の状態データを比較し、教育プログラムの改善に活用できます。
WBGTによる環境管理は、今後も熱中症対策の基本となります。一方で、現場の安全性をさらに高めるためには、作業者自身の状態変化にも目を向けることが重要です。
集中度や眠気度、消耗度といったデータを活用することで、熱中症リスクだけでなく、ヒューマンエラーや作業品質低下の兆候も早期に把握できるようになります。
これからの現場づくりでは、「環境を測る」だけでなく、「人の状態を見える化する」という視点が、より重要になっていくでしょう。
状態推定データを活用する際は、利用目的、取得するデータ、閲覧できる人、保存期間などを事前に明確にし、対象者へ分かりやすく説明することが重要です。データを人事評価や懲戒の根拠として単独で使用せず、環境改善や本人への支援につなげる運用方針を定める必要があります。
また、取得データの内容によっては個人情報やプライバシーに関わる情報として扱う必要があります。導入時には、利用目的の明確化、本人への説明、同意取得、閲覧権限の管理、保存期間の設定などを事前に整理し、社内ルールに沿って運用することが求められます。
エモコアイは、三菱電機が開発した非接触型センサーです。レスターは、エモコアイで推定した集中度、眠気度、消耗度、活性・緊張度、呼吸強度、脈拍数などの状態データと、温度・湿度・CO₂濃度などの環境データを、ダッシュボード「エモスタトナビゲーター」で分かりやすく可視化します。
なお、本ソリューションは医療機器ではなく、疾病や心理状態の診断を目的とするものではありません。
感覚だけでは見えにくい人の状態も、脈拍データを活用することで客観的に把握できる可能性があります。人の変化を可視化し、安全性や働きやすさの向上につなげることが、これからの組織運営に求められています。
WBGTだけでは見えない作業者の状態を可視化し、安全で生産性の高い現場づくりを実現しませんか。